紅茶のミルクファーストとミルクインアフター|英国論争と味の違い

紅茶のミルクファーストとミルクインアフター

ミルクティーを淹れるとき、ミルクを先に入れるか、紅茶を注いでから加えるか。迷ったことはありませんか。英国では長らく語られてきた話題で、実は味わいにも小さな差が生まれます。秋の入り口、ミルクティーがおいしくなるこの季節に、その違いを整理してみましょう。

ミルクファーストとミルクインアフターとは

「ミルクファースト」は、空のカップにミルクを注いでから紅茶を重ねる淹れ方です。対して「ミルクインアフター」は、先に紅茶をカップに注ぎ、後からミルクを加える淹れ方を指します。順番が違うだけの話に見えますが、英国では「どちらが正統か」がティータイムの定番の話題になってきました。

どちらの方法でも、使う茶葉とミルクの量が同じであれば成分そのものは変わりません。変わるのは、ミルクのタンパク質が受ける熱の当たり方と、混ざり方です。ミルクファーストでは、少量の冷たいミルクに熱い紅茶が少しずつ加わるため、ミルクの温度上昇がゆるやかになります。ミルクインアフターでは、高温の紅茶に冷たいミルクが一気に加わるため、ミルクの一部が急に熱を受けます。この差が、口当たりのなめらかさとして感じられることがあります。

当店のティーサロンでお客様からよく聞かれるのは「お店ではどちらでお出ししているのですか」というご質問です。サロンでは紅茶の色をご覧いただきたいので、ミルクは小さなピッチャーで別添えにし、ミルクインアフターでお好みの量を加えていただくスタイルを基本にしています。ご自宅で毎日飲まれる方には、ミルクファーストも一度試していただくようお伝えしています。

英国での論争の背景

この話題が有名になった理由のひとつは、器の事情です。かつて陶磁器が熱に弱かった時代、熱い紅茶を直接注ぐとカップが傷むおそれがありました。そこで先にミルクを入れて温度を和らげたという説があります。丈夫な器を持つ家では紅茶を先に注げたため、「順番が家柄を示す」という見方まで生まれたと語られてきました。

文学の世界でも取り上げられています。1946年に発表された随筆「一杯のおいしい紅茶」では、紅茶を先に注ぎ、混ぜながらミルクの量を調整すべきだという立場が示されました。一方、2003年には英国の化学系学会が「おいしい紅茶の淹れ方」に関する見解を公表し、ミルクを先に入れる方がタンパク質の急激な変化を避けられるという説明で話題になりました。つまり、香りと色を楽しみたい派と、口当たりを重視する派で結論が分かれてきたわけです。

どちらが正解と決める必要はありません。大切なのは、紅茶そのものがしっかり抽出されていること。基本の抽出が甘いと、順番を工夫しても味は決まりません。まずは紅茶の淹れ方の基本(温度・分量・蒸らし時間)を押さえてから、順番の違いを楽しむのがおすすめです。

味と口当たりはどう変わるか

実際に同じ茶葉、同じミルク量で飲み比べると、次のような傾向が感じられます。あくまで傾向で、茶葉の個性やミルクの脂肪分によっても印象は変わります。

比較項目ミルクファーストミルクインアフター
口当たりまるく、なめらかに感じやすい紅茶の輪郭が立ち、すっきり
香りの立ち方ミルクの甘い香りが前に出る茶葉の香りを確かめやすい
量の調整先に決めるため難しい味を見ながら足せる
混ざり方注ぐ勢いで自然に混ざる軽くひと混ぜが必要
向くシーン毎日の一杯、濃く出した紅茶来客時、香りの高い茶葉

香りの高いフレーバーティーは、ミルクを後から少量ずつ加えると香りの変化を追いやすくなります。反対に、しっかり濃く抽出したアッサム系の紅茶は、ミルクファーストにすると角が取れてやさしい味わいになります。ミルクティー向きの茶葉カテゴリから2種類選び、同じ日に飲み比べてみると差がよくわかります。

おいしく仕上げる分量と温度の目安

順番を試す前に、抽出の条件をそろえておきましょう。ミルクを加える前提の紅茶は、ストレートより少し濃めに淹れるのがコツです。以下は1杯分(カップ150ml前後)の目安です。

茶葉茶葉量/湯量湯温・蒸らしミルク量
アッサム3.5g/130ml熱湯・3分20〜30ml
アイリッシュモルト3g/130ml熱湯・3分20ml前後
アールグレイ3g/140ml熱湯・2分30秒10〜15ml
ダージリン3g/150ml熱湯・3分加えず推奨

ミルクは冷蔵庫から出したままでも構いませんが、量が多いと紅茶の温度が下がりすぎます。ミルクを30ml以上使いたい日は、耐熱の器で人肌程度に温めてから加えると、香りの立ちが保たれます。牛乳の種類は成分無調整のものが紅茶の渋みとよく合い、脂肪分が高いほどコクは増しますが茶葉の香りは控えめになります。当店ではロイヤルミルクティー専用牛乳もご用意しており、煮出しの濃いミルクティーにも負けない味わいをお選びいただけます。

ミルクに向く茶葉の選び方

ミルクと合わせるなら、コクと厚みのある紅茶が扱いやすいです。定番はアッサム。麦芽のような甘い香りが特徴のアイリッシュモルト 100gは、当店で最も多くのお客様に選ばれているミルクティー向きの茶葉です。少量のミルクでも香りが負けず、ミルクファーストでもふくらみのある味に仕上がります。手軽に試したい方は、1枚ずつ密封されたティーベロップ アッサム 5枚入りから始めるのもおすすめです。

一方、繊細な香りを楽しむダージリンや上級のフレーバーティーは、ストレートのほうが個性が伝わります。もし試すなら、ミルクは10ml程度にとどめてください。産地ごとの性格を知りたい方は、ブラックティー(紅茶茶葉)の一覧から選びつつ、紅茶の種類一覧をまとめたコラムもあわせてご覧いただくと選びやすくなります。

ティーサロンでは、9月に入ってから温かいミルクティーのご注文が目に見えて増えてきました。冷たい飲み物から切り替える時期に、まずはミルクインアフターで濃さを確かめ、好みの量が決まったらミルクファーストに移る、という順番でお試しになるお客様が多いです。焼き菓子と合わせるなら、アールグレイのパウンドケーキのように紅茶の香りを重ねたお菓子が好相性です。

よくある質問

Q. ミルクファーストとミルクインアフター、結局どちらが正しいのですか

A. どちらも正しい淹れ方です。なめらかな口当たりを求めるならミルクファースト、紅茶の色と香りを確かめながら量を決めたいならミルクインアフターが向いています。同じ茶葉で飲み比べて、お好みを見つけていただくのが一番です。

Q. 低脂肪乳や植物性のミルクでも大丈夫ですか

A. お使いいただけます。低脂肪乳はさっぱりとした仕上がりになり、豆乳やアーモンドのミルクは独特の香りが加わります。植物性のものは酸や温度で分離しやすい場合があるため、紅茶を少し冷ましてから静かに加え、ミルクインアフターで様子を見ながら混ぜると失敗が少なくなります。

Q. ミルクティーが水っぽくなってしまいます

A. 抽出が薄いか、ミルクの量が多い場合がほとんどです。茶葉を0.5g増やす、湯量を10〜20ml減らす、蒸らしを30秒延ばす、のいずれかを試してください。ミルクは20ml前後から始め、少しずつ増やすと好みの濃さに近づきます。

Q. 煮出すロイヤルミルクティーでは順番は関係しますか

A. 鍋で牛乳と一緒に煮出す作り方では、順番の議論はあまり関係しません。牛乳を加えるタイミングと火加減が味を決めます。詳しい手順はチャイの作り方を解説したコラムで紹介している煮出しの考え方が参考になります。

まとめ

  • ミルクファーストは先にミルク、ミルクインアフターは先に紅茶を注ぐ淹れ方です。
  • 英国では器の事情や随筆、学会の見解などを通じて長く語られてきた話題で、どちらにも理由があります。
  • ミルクファーストは口当たりがまるく、ミルクインアフターは香りと濃さを確かめながら量を決められます。
  • ミルクを加える紅茶は少し濃めに淹れ、カップ150mlに対しミルク20ml前後から調整するのが目安です。
  • アッサムやアイリッシュモルトのようにコクのある茶葉が扱いやすく、繊細なダージリンはストレート向きです。

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