
秋が深まる10月、温かい一杯が恋しくなる季節です。そんな折、「紅茶の国イギリスで、コーヒー派が紅茶派を上回った」という話題を目にして驚いた方も多いのではないでしょうか。今回は、この話題の背景と、それでも紅茶が英国の日常であり続ける理由を、紅茶専門店の視点で読み解いていきます。
イギリスで紅茶とコーヒーが逆転?SNSで話題になった出来事
2023年9月ごろ、「イギリスでコーヒーを飲む人が紅茶を飲む人を上回った」という調査結果が報じられ、日本のSNSでも大きな話題になりました。「あの紅茶の国で?」「ティータイムはどうなるの?」といった驚きの声が並び、紅茶好きの間でもしばらく語り草になった出来事です。
ただし、この種の調査は質問の仕方や対象の世代によって結果が変わるもので、「イギリス人が紅茶をやめた」という話ではありません。あくまで「ある調査で、こういう傾向が見えた」という範囲の報道です。実際、現地を訪れた方に伺うと、家庭でも職場でも紅茶のマグは変わらず手元にあると言います。数字の見出しだけが独り歩きしやすいテーマだからこそ、何が変わり、何が変わっていないのかを分けて考えると、紅茶という飲み物の本質が見えてきます。
何が変わったのか|若い世代とカフェ文化の広がり
変化の背景としてよく語られるのが、若い世代を中心としたカフェ文化の広がりです。街にコーヒーを提供する店が増え、持ち歩ける紙カップで飲むスタイルが定着したことで、「外で買って飲む飲み物」の選択肢としてコーヒーが選ばれやすくなった、という説があります。
もう一つは、飲み方そのものの違いです。紅茶は家庭で湯を沸かして淹れる「家の飲み物」としての性格が強く、外出先での一杯という場面では表に出にくい。つまり統計上の見え方と、暮らしの中の実感がずれやすいのです。加えて、在宅で働く時間が増えたことで一日のリズムが変わり、決まった時間に皆でお茶を飲む習慣が薄れた、という見方もあります。
| 観点 | 紅茶が選ばれやすい場面 | コーヒーが選ばれやすい場面 |
| 場所 | 家庭・職場の給湯室 | 街のカフェ・持ち帰り |
| 淹れる手間 | 湯を沸かして数分蒸らす | 注文すればすぐ受け取れる |
| 共有のしかた | ポットで複数人分を分け合う | 1人1杯で完結しやすい |
| 統計での見え方 | 家庭内のため数えにくい | 購買行動として表れやすい |
こうして並べてみると、「逆転」と報じられた現象の少なくとも一部は、飲まれる場所と買われ方の違いによるものだと分かります。紅茶は暮らしに溶け込みすぎて、かえって目に見えにくい飲み物なのです。
それでも紅茶が英国の日常であり続ける理由
英国で紅茶が手放されない最大の理由は、味や香り以前に「一息つく合図」として機能しているからだと言われます。仕事の区切りに湯を沸かし、同僚の分も一緒に淹れる。来客があればまずケトルのスイッチを入れる。紅茶はコミュニケーションの作法そのものとして根づいています。戦場の車両にまで湯沸かし器が備えられた逸話は、その象徴と言えるでしょう。詳しくはイギリスの戦車に紅茶の湯沸かし器がある理由でご紹介しています。
また、英国式の日常の紅茶はマグにティーバッグを入れ、濃いめに出してミルクを注ぐスタイルが主流です。砂糖を入れる人、入れない人、ミルクを先に注ぐ人と好みは分かれますが、どの家庭にも「自分の一杯」の型があります。具体的な飲み方はイギリス人の紅茶の日常的な飲み方で詳しく解説しました。
当店のティーサロンでお客様からよく聞かれるのは、「現地の人はどんな紅茶を飲んでいるのですか」というご質問です。実際には、香りを楽しむ高級茶葉よりも、濃く出てミルクに負けない日常の茶葉が選ばれることがほとんどです。ティーベロップ イングリッシュブレックファーストのような、朝の目覚めに寄り添うしっかりした味わいが、まさにその役割を担っています。
日本では逆に紅茶が見直されている
興味深いのは、英国で話題になったのとちょうど入れ替わるように、日本では紅茶への関心が高まっていることです。専門店が増え、ペットボトルの無糖紅茶も定着し、家庭でリーフティーを淹れる方が目に見えて増えました。当店でも、ここ数年は20代・30代のお客様が「茶葉から淹れてみたい」と相談にいらっしゃる機会がはっきりと増えています。10月に入ってからは、「冷たいものから温かい紅茶に切り替えたい」というご相談が特に多く、秋らしいコクのある茶葉をおすすめする場面が続いています。
コーヒーと紅茶は対立するものではなく、時間帯や気分で使い分けられるもの。朝はしっかりしたミルクティー、午後は香りの繊細なストレートティー、夜はカフェインの少ないハーブティーといった具合に、一日の流れの中に自然に組み込むのがおすすめです。
| 時間帯 | おすすめの茶葉 | 茶葉量・湯温・蒸らし時間(1杯300ml目安) |
| 朝 | イングリッシュブレックファースト | 3g/沸騰湯/3分 |
| 午前のひと息 | ダージリン | 3g/沸騰湯/3分 |
| 午後 | アイリッシュモルト(ミルクティー) | 4g/沸騰湯/3〜4分 |
| 夜 | カモミールなどのハーブティー | パック1個/沸騰湯/5分前後 |
英国式の一杯を自宅で楽しむ茶葉選び
「逆転」の話題をきっかけに、改めて紅茶を淹れてみたいと思われた方へ。まずおすすめしたいのは、ミルクを注いでも香りが立つコクのある茶葉です。当店で長年人気のアイリッシュモルト 100gは、麦芽の香ばしい甘い香りが特徴で、秋のミルクティーにぴったり。ミルクとの相性を重視する方はミルクティー向けの茶葉からお選びいただくと迷いません。
香りを静かに味わいたい日は、ストレートで楽しむダージリンスーパーファイン 100gを。秋のダージリンは渋みが落ち着き、果実のような甘い余韻が感じられます。産地ごとの違いを比べてみたい方は、ブラックティー(紅茶茶葉)のカテゴリから気になる一つを選んでみてください。
おいしく淹れるコツは難しくありません。カップは熱湯で温めておく、水は汲みたてをしっかり沸騰させる、分量と時間をきちんと計る。この3点を守るだけで、同じ茶葉でも驚くほど味が変わります。当店のサロンでも、ご自宅で味が決まらないというご相談の多くは、湯温の低さか計量の曖昧さが原因でした。キッチンタイマーを一つ用意するだけで、毎日の一杯が安定します。
よくある質問
Q. イギリスではもう紅茶を飲まなくなったのですか?
A. そういうわけではありません。報じられたのは「ある調査でコーヒーを飲む人の割合が上回った」という傾向で、紅茶が日常から消えたという意味ではありません。家庭や職場での紅茶習慣は今も広く根づいていると言われています。
Q. 紅茶とコーヒー、カフェインはどちらが多いのですか?
A. 一般に、同じ分量で比べると抽出されたコーヒーのほうが多い傾向があるとされますが、茶葉の量や蒸らし時間、豆の焙煎や淹れ方で大きく変わります。夜に控えたい場合は、ノンカフェインのお茶を選ぶと安心です。
Q. コーヒー党でも飲みやすい紅茶はありますか?
A. コーヒーの香ばしさやコクがお好きな方には、麦芽の香りを持つアイリッシュモルトや、しっかりとした味わいのアッサム系がなじみやすい傾向があります。まずはティーバッグで少量ずつ試し、好みの方向性を見つけるのがおすすめです。
Q. 朝の忙しい時間でも手軽に淹れられますか?
A. はい。茶葉がしっかり広がる大型のティーバッグなら、マグに入れて沸騰湯を注ぎ、3分置くだけで本格的な味わいになります。時間になったら静かに引き上げるのがコツです。
まとめ
- 2023年9月ごろ、イギリスでコーヒー派が紅茶派を上回ったという調査結果が報じられ、日本のSNSでも話題になりました
- 背景には若い世代のカフェ文化の広がりや、外で買って飲むスタイルの定着があるという説があります
- 紅茶は家庭や職場で飲まれることが多く、統計には表れにくい「暮らしの飲み物」です
- 英国では今も、一息つく合図として紅茶が日常に根づいていると言われています
- 日本では逆に紅茶が見直され、茶葉から淹れる方が増えています
- 朝はコクのある茶葉、午後は香りを楽しむ茶葉と、時間帯で使い分けるのがおすすめです