
秋の朝、温かい一杯の紅茶が恋しくなる季節になりました。ところで数年前、「マグカップに水と牛乳を入れて電子レンジで1分」という紅茶の淹れ方が、海を越えて大きな話題になったことをご存じでしょうか。今日はその出来事を入り口に、紅茶の味を決める基本をあらためて整理してみます。
電子レンジで紅茶を淹れる「アメリカ式」が話題になった話
2020年6月、英国在住のアメリカ出身の女性が、自分流の紅茶の淹れ方を動画で紹介しました。手順はとてもシンプルで、マグカップに水を半分ほど注ぎ、そこに牛乳を足し、ティーバッグと砂糖を入れて電子レンジで1分加熱する、というもの。この動画に対して英国の人々から悲鳴に近い反応が上がったと、英国メディアで報じられました。その後も同じような「アメリカ式」の淹れ方の動画が繰り返し話題になっています。
もちろん、どの国のどんな飲み方にも背景があり、他国の習慣を笑うための話ではありません。ただ、この出来事は「なぜ英国の人はそこまで驚いたのか」を考えると、紅茶をおいしく淹れる条件がくっきり見えてくる、とても分かりやすい教材でもあります。当店のティーサロンでも、この話題をご存じのお客様から「結局、電子レンジで淹れるのはだめなんですか?」とご質問をいただくことがあり、そのたびに温度と順番の話をお伝えしています。
英国の一般的な淹れ方との違い
英国で広く行われている淹れ方は、沸騰したてのお湯を茶葉やティーバッグに注ぎ、しっかり蒸らしてからミルクを加える、という流れです。つまり「抽出」と「ミルクを足す」が明確に分かれています。話題になった方法は、この2つを同時に行ってしまっているところが、紅茶好きの目に留まったポイントでした。
| 項目 | 話題になった電子レンジ方式 | 英国で一般的な淹れ方 |
| 加熱 | カップのまま電子レンジで1分 | やかんでお湯を沸かす |
| 注ぐ湯の状態 | 水と牛乳が混ざった液体を加熱 | 沸騰したてのお湯 |
| ミルクの順番 | 抽出前に投入 | 抽出後に加える(先に入れる派もあり) |
| 蒸らし | 加熱時間と同時進行 | 3分前後をきちんと計る |
| 仕上がり | 香りが弱く、色も出にくい傾向 | 香りと水色がしっかり立つ |
なぜ電子レンジだと紅茶の味が変わるのか
理由1:沸騰したてのお湯でないと成分が出きらない
紅茶の香りと味わいは、高い温度のお湯にしっかり触れてはじめて茶葉から引き出されます。沸騰したてのお湯を勢いよく注ぐと、ポットの中で茶葉が上下に動く対流が生まれ、これが均一な抽出につながります。電子レンジで加熱する場合、液体は容器の中で静かに温まるため、この対流が生まれにくく、温度も注ぎたての湯ほど一気に上がりません。結果として、香りの立ち方が弱く、水色も淡くなりがちです。
温度の大切さについては、当店の紅茶の淹れ方|温度・分量・蒸らし時間の基本とゴールデンルールでも詳しくご紹介しています。まずはこの基本を押さえるだけで、同じ茶葉でも一杯の印象がはっきり変わります。
理由2:牛乳を先に入れると温度が下がる
冷蔵庫から出したばかりの牛乳は、5度前後です。これを水に混ぜてから加熱すると、液体全体の温度上昇が緩やかになるうえ、牛乳のたんぱく質や脂肪分が茶葉の成分の抽出を妨げる方向に働きます。英国で「ミルクは先か後か」という長年の論争がありますが、あれはあくまで「淹れ終えた紅茶」に対してミルクをどう合わせるかという話で、抽出前に牛乳を入れることとはまったく別の問題です。この違いは、紅茶のミルクファーストとミルクインアフター|英国論争と味の違いで整理しています。
理由3:蒸らし時間が管理できない
紅茶は茶葉の形状や等級によって、適した蒸らし時間が変わります。細かい茶葉(BOPなど)なら2分半から3分、大きな茶葉(OPなど)なら3分から4分といった具合です。加熱と抽出が同時に進む方法では、この時間をコントロールできません。当店のティーサロンでも、「家で淹れると渋い」というご相談のほとんどは、温度か時間のどちらかが原因です。キッチンタイマーを1つ置くだけで解決してしまうことも少なくありません。
おいしいミルクティーの手順をあらためて
では、家庭でおいしい一杯を淹れるにはどうすればよいのでしょうか。手順はとても単純です。
| 手順 | 内容 | 目安 |
| 1 | ポットとカップを湯で温める | 30秒ほど |
| 2 | 茶葉を量ってポットへ | 1杯あたり2.5〜3g |
| 3 | 沸騰したてのお湯を注ぐ | 1杯あたり150〜160ml |
| 4 | 蓋をして蒸らす | 3分前後 |
| 5 | カップに注ぎ、ミルクを加える | 20〜30ml |
電子レンジを使うなら、紅茶そのものを淹れるためではなく、ミルクを少し温めておくために使うのがおすすめです。冷たいままのミルクを注ぐと、せっかくの一杯が一気にぬるくなってしまいます。ミルクを30秒ほど温めてから加えると、香りの立ち方が変わります。
秋のミルクティーに向く茶葉
9月の終わりは、朝晩の空気がひんやりしてくる時期です。冷たい一杯から温かい一杯へ切り替えるなら、コクのある茶葉が心地よく感じられます。当店で毎年この時期にご注文が増えるのがアイリッシュモルト 100gです。麦芽の香ばしい甘い香りが特徴で、ミルクを合わせると一層まろやかになります。サロンでも「この香りを嗅ぐと秋が来たと感じる」とおっしゃるお客様が多く、試飲でお出しするとそのままお持ち帰りになる方が本当に多い茶葉です。
しっかりとしたコクを求める方にはティーベロップ アッサム 5枚入りも便利です。ティーバッグとはいえ、たっぷりの茶葉が中で広がるように設計されていますので、沸騰したてのお湯を注いで3分待てば、リーフティーに近い満足感が得られます。忙しい朝でも、電子レンジに頼らずきちんとした一杯が楽しめます。
ほかの茶葉も試してみたい方はミルクティー向けの茶葉のカテゴリから、香りの好みで選んでみてください。秋の焼き菓子と合わせるなら、アールグレイのパウンドケーキのようなしっとりした菓子が、ミルクティーとよく寄り添います。
よくある質問
Q. 電子レンジで紅茶を淹れるのは絶対にだめですか?
だめというより、紅茶本来の香りと味を引き出しにくい方法です。沸騰したてのお湯を注いで対流を起こすという条件が満たされないため、同じ茶葉でも仕上がりが物足りなくなります。おいしさを重視されるなら、やかんや電気ケトルでお湯を沸かす方法をおすすめします。
Q. 電子レンジでお湯だけ沸かして注ぐのはどうでしょうか。
容器の中で温度ムラが生じやすく、沸騰したてのお湯を注いだときの勢いも再現しにくいため、味の安定という点では不利です。どうしてもという場合は、しっかり沸いた状態まで加熱し、できるだけ高い位置から一気に注ぐと、多少は対流が生まれやすくなります。
Q. 砂糖はいつ入れるのがよいですか?
抽出が終わってカップに注いだあとです。抽出前に砂糖を入れても味が良くなるわけではなく、むしろ甘さの加減が分かりにくくなります。まず一口そのまま味わってから、必要な分だけ加えるのが上品な楽しみ方です。
Q. ミルクは何を使えばよいですか?
一般的な成分無調整の牛乳で十分おいしく仕上がります。より濃厚な一杯をお求めでしたら、当店ではアイリッシュモルトの秘密のレシピセットもご用意しています。茶葉と牛乳の組み合わせをそのままお試しいただける内容です。
まとめ
- 2020年6月、水と牛乳をマグに入れて電子レンジで1分という淹れ方の動画が英国で大きな反応を呼び、その後も同様の話題が繰り返されています。
- 驚かれた理由は、沸騰したてのお湯を使っていないことと、抽出前に牛乳を入れていることの2点に集約されます。
- 紅茶は高温のお湯で対流を起こしてこそ、香りと水色がしっかり引き出されます。
- 英国の一般的な手順は、お湯で抽出してからミルクを加えるという流れです。
- 蒸らし時間は3分前後を目安に、タイマーで計るだけで味が安定します。
- 電子レンジはミルクを温める用途に使うと、温かい一杯をより心地よく楽しめます。
- 秋の朝には、麦芽の香ばしさが際立つアイリッシュモルトのようなコクのある茶葉がよく合います。